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短編

ブルースカイ
aki様:作



[紹介文]実体験を元にしたお話です。


翔ちゃんはこの窓から見る景色しか知らないんだね。


残された僅かな命の灯火が消えるまで、
目に映る外の世界はずっとずっとこれだけなんだ。


神様…どうして病魔は翔ちゃんを選んだのですか?


翔ちゃん…何も出来なくてごめんね。


あたしは翔ちゃんの入院している
病院に勤めている25歳の看護師。


翔ちゃんは28歳で、
胚細胞腫瘍という病で入院の運びとなった。


腫瘍には良性と悪性があって、
悪性の場合は後の生存率が低くなる。


腫瘍が破裂して病院に搬送された翔ちゃんは、
目が覚めた時には自分でトイレに行く事も、
起き上がる事さえ出来なくなっていた。


翔ちゃんの腫瘍は悪性で、放射線治療の為、
髪は抜け落ち、食欲もなくなって痩せていった。


予後の経過は残存能力を維持する事が最大の治療となり、
失われた能力が回復する事はない。


それでも翔ちゃんはいつもにこやかに
看護師達にちょっかいを出して来た。


明るく優しくて、
心の内の苦しみや葛藤を決して表に出さない人だった。


カルテを見ると、奥さんと三才の子供との三人家族。
仕事は運送業をしていたらしい。


翔ちゃんの事は一人の患者としてしか見ていなかった。
あの話を聞くまでは…。


翔ちゃんが入院して半年程経ったある日
ナースステーションで先輩の一人が話しかけて来た。


『翔太君も気の毒だよね。あの若さでこんな病気になってさ。
奥さんもあれではね』


『奥さんがどうかしたんですか?』


『離婚届け勝手に出したらしいよ。
辛いのはわかるけどさ…病気になって先のない旦那を捨てるなんてね…』


『え…そんな…』


『それに子供は奥さんの連れ子だったらしいよ。
翔太君は血の繋がらない子供を受け入れて結婚したっていうのに…。
まだ結婚して一年くらいなんだってさ』 『そうだったんですか』


『奥さんも若いしさ、自分の人生が大事なのもわかるよ。
重い障害遺った家族を抱えるのも並大抵じゃないだろうし。


だけど発病半年で離婚はね…。
一番辛く心細い時に愛する人から切り捨てられた
翔太君の気持ち思うと切ないよね。
これから先…恋愛はもちろん生きてく事さえ困難な訳だから』


息が止まりそうだった。胸がズキンと痛くて重くなった。


翔ちゃんはどんな地獄を見たのだろう。病に倒れ、
手足も自由にならず、愛する人には裏切られ…
これから先ずっと病院のベッドから出る事はない。


翔ちゃんの生きる意味や喜びは?どこにあるというのだろう。


それからあたしの中で何かが変わっていった。


入浴日に翔ちゃんの体を洗う時、
大きな背中を優しく丁寧に洗った。
翔ちゃんの痛みや苦しみも全部キレイに洗い流せる様に。


ある日夕飯の後の薬を持って行くと、殆ど食べていなかった。


『食べないと良くならないよ。
翔ちゃんは食べるのが仕事なんだから』


そう言うと翔ちゃんは笑いながらこう言った。


『食べれば良くなると言われて今まで頑張ったけど
全然良くならない。こんな状態じゃこれ以上悪くなりようもないよ』


目にかすかに涙が光っていた。


ある夜勤の夜、翔ちゃんの部屋に行くと、
ドキュメンタリー番組を観ていた。


貧しい国でエイズに冒された子供が残飯を漁っていた。


『この子に未来はない。後は死ぬのを待つだけ』


゛俺と一緒゛と言っている様な気がした。


あたしは思わず翔ちゃんの手を握った。
翔ちゃんは優しく握り返して来た。


外の空気を思い切り吸ったり、歩いたり、
走ったり…当たり前の事が翔ちゃんはもう二度と出来ない。


美味しいもの食べたり、女の子とデートしたり、
友達とお酒飲んだり…同じ年代の人が楽しんでいる事を何一つもう…。


どうして?


涙が溢れたその瞬間、あたしは唇を重ねていた。


あたしがそばにいるよ。翔ちゃんの命が尽きる時まで。


後ろでガチャとドアの開く音がした。
一緒の夜勤だった婦長が立っていた。


次の日、院長と婦長に呼ばれ、あたしは自主退社を言い渡された。
尋問の様に翔ちゃんとの事を色々と聞かれたが曖昧に答えた。
自分でもよくわからなかった。


最後に婦長がこう言った。


『恋愛感情はあったのですか?』


『わかりません』


恋なのか愛なのか情なのか…自分でもわからなかった。


翔ちゃんにはもう二度と会えない。
病室から四角い空を見上げながら、今何を思うんだろう。


ずっと一緒にいると誓ったのに…
約束を守れなくてごめんね。








直アド交換しよ☆
今スグ会いたいし

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