いますぐ……、
会えたりしますか?

『今すぐあえる?』
CHANCEはココから☆

三原 リヨ様

おかえり、ママ。


[紹介文]少し大人びた子供の
子供らしさを素朴に書き上げました。


土曜日は嫌い。


ぼくとママを離ればなれにするんだもの。


時間の経つのがとても遅い。


ママと遊んでたらあっという間の時間も、
隣に住んでるおばさんの家にいると、何週間も経ってる気分になる。


ほら、またぼくを呼んでる。


ママの最初の優しさがつまった
自分の名前もこの時ばかりは嫌になる。


ぼくの名前はぼくが生まれる前にママが考えてくれたの。


生まれてから名前のない期間がないように、
男の子でも女の子でも似合う名前を。


暗闇の中で迷子になっても、
必ず光を見つけられるようにって。


小さくても読み書きできるようにひらがなでって・・・。


とにかく今は猫なで声が耳につく。


「ひかるちゃん?もうすぐママが帰ってくるからね。
いい子にしてようね。」


こうやってすぐうそくさい嘘をつく。


おばさんがこう言ってママが帰ってきたことは一度もない。


こくんと適当なうなずきをして、
もといた自分のところへ気持ちを戻す。


そう、ママの作ってくれたクマのぬいぐるみのところへ。


パパはいない。前に一度パパのことを聞いたら、
いつも笑ってるママが泣いた。


すごく悪いことをした気になってぼくも泣いた。


何度も何度もあやまった。


それからはパパのことは聞かないようにしてる。


笑ってるママがよく知らないパパよりも好きだから。


ママはぼくの全てなんだ。


ママもきっと同じようにぼくのことを想ってる。


ママは平日もお仕事だけど、ぼくを一緒に連れてってくれる。


土曜日は別のお仕事をしてるんだ。


どんなお仕事なのかは知らない。


どうせぼくとママをひき離すんなら、
お仕事の中身なんてどうでもいいことだもの。


「ひかるちゃん?ママ帰ってこないわねぇ。
だめねぇ、ひかるちゃん一人にして。」


ママはだめじゃない。


頑張ってるだけだ。


自分とぼくとおばさんに払うお礼のために。


「ママ帰ってこないから、おばさんと夕飯のお買い物行こうか。」


これも時々あることだけど、
おばさんがあまりに顔を近づけてしゃべってくるから、
強烈なお化粧のにおいに圧倒されて断れたためしがない。


ぼくは急いで玄関へ行き靴をはく。


おばさんにせかされないようにとしていたこの行為は、
今思えば、ぼくがお買い物に行きたがってると
勘違いされていたかもしれない。


ぬいぐるみは連れていかない。


なくしたくない宝物だから。


おばさんと出かけるときほど、
この人をママと正反対だと思うときはない。


ぼくのママはとっても美人だ。


たぶん世界で一番。


髪が長くてさらさらで、目が大きくてきらきらしてる。


お出かけのときは少しお化粧するんだ。


いつかぼくがマネをして、口紅を顔にぬったとき、
一瞬おこったように見せすぐに笑いころげたママを覚えてる。


そして、ぼくの歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。


もちろん、ぼくと手をつなげるよう、ぺたんこの靴をはいて。


でも、この人はというと、
子供のぼくでも一緒に歩くのが
恥ずかしくなるくらい派手お洋服を着て、
ぼくと手をつないでいるのを
忘れているかのようにさっそうと歩く。


このとき、こけないようにするのがやっとだというのに、
腕の心配もしなきゃいけなくなる。


おばさんのはいている真っ赤なハイヒールのせいで。


見た目にも疲れるその高いヒールがアスファルトをたたく。


とても耳ざわりでイライラする。


ぼくは数を上手に数えられないけど、
望んでもいないのに何度も何度もくり返しその音を数えてしまう。


夏はお日さまの光がおばさんの赤に反射して、
ぼくの目をピカピカとパンチするから
よけいにいらだちがつのるんだ。


スーパーに着いてからは歩くスピードが
落ちるからこける心配はなくなるけど、
あのコツコツ音は変わらない。


家に残しておいたら何をされるかわからないからと
ぼくを連れてきた理由を説明するかのようにぼくを無視して、
さっさと品を選び、会計をすませ、店を出る。


また来た道ぶん、苦労が続く。


家に着くとまず手を洗う。


うがいもだけど、これはたまにさぼる。


おばさんの家に預けられた最初の頃は、
すぐさまぬいぐるみの所へ飛んでいったのだけど、
あんまり毎回しかられるから、最近はとうとう観念したんだ。


ぬいぐるみはいつもぼくを待っていてくれるけど、
ママのような優しい笑顔はサービスしてくれない。


しばらくすると夕飯ができる。


「いっぱい食べてね。」


と、思ってもいないくせに言うんだ。


味はまずくない。


ぼくは知ってる。


ぜんぶ冷凍食品なんでしょ。


だってご飯の準備の時になると、
決まって「チン!」っていきおいのある電子音がするんだもの。


ママは違う。


いつもぼくの好きなハンバーグとか
オムライスとかスパゲッティを作ってくれる。


それも、カチャカチャとかトントンとか
ジュージューとか楽しげな音をさせて。


食べ終わるとおばさんはテレビを見る。


ぼくはおばさんのちょっと後に食べ終わる。


それからぬいぐるみと並んで時計をながめる。


ママを待つために時計の読み方を覚えたんだよ。


今日はいつもより遅いけど、ちゃんと帰ってきてくれるよね?


優しい声でぼくを呼んでくれるよね。いつもみたいに。


優しい手でなでてくれるよね。いつもみたいに。


ぼくのためにお仕事をしないでいてくれる日曜日のために・・・。


ぼくはいつのまにか眠ってしまい、夢を見ていた。


ママと二人でご飯を食べてる。


ぼくはおはしとけんかしながら必死になってママに言う。


「ぼく何でもするよ?ママとずっと一緒にいられるなら。
おねしょだってもうしないように頑張るし、
大好きなおやつもあげる。お気に入りのぬいぐるみも。
ママがいれば何もいらないよ?」


時々、おはしと食べ物から
目をそらしてママの顔を見上げるけど、
いつだってママはぼくを見てくれてる。


そんな夢・・・。


目を覚ますと、見慣れた天井に安心するいいにおい。


隣にぬいぐるみ、反対側にはママ。


「おはよう、ひかる。ただいま。」




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