11・お礼が言いたかった・・だけ
昨日の雨とはうってかわって
快晴の空が果てしなく広がっている。
田んぼに並んでいる苗は緑の濃さを増し、
水が風をうけて揺らいでいた。
シャツの中、汗が背中をつたい滑り落ちていく。
僕は配達をあと1軒だけ残し、
緑の木々の前で深呼吸をしていた。
僕の首筋を爽やかな風が通り抜け、
心地よく身体が冷えていった。
町内でお昼を告げる音楽が鳴ったのを合図に
僕はヘルメットをかぶり、バイクに跨った。
エンジンが午後の静けさの中響く。
昨日と同じ両側に田んぼのあるまっすぐな道を右にそれ、
生姜畑を抜けると着いた。
玄関に置かれている花はよく手入れされている。
バイクを家の前に止め、呼鈴を押した。
額から汗が流れ落ちた。
ピンポーン
「はーい」
今日は呼鈴の音も返事の声もはっきりと聞こえた。
僕は引き戸を開け玄関に入ると、
女性はやっぱり廊下の奥にいた。
廊下の奥の開け放たれている戸から
日が差し込み女性をはっきりと見てとれる。
白いシャツの袖からすぅーと伸びた白い手。
陶磁器を思いおこした。
「あの・・・」
女性に声をかけられるまで見とれていた自分。
「あっすみません。郵便です」
見とれていた自分が恥ずかしくなり俯きかげんにそう言った。
「靴棚の上に置いててもらえますか?」
女性は手紙を受け取りにこようとはしない。
靴棚の花器の前に手紙を置く。
帰ろうと踵を返し、あっと思った。
僕は振り返り開け放たれた戸から
部屋に入ろうとした女性に尋ねた。
「すみません、ひなちゃんは?」
女性は振り返る。
女性が悲しい顔を一瞬見せたことに僕は気づかなかった。
「ひながなにか?」
「あっいえ、あのひなちゃんから
励ましの手紙をもらい・・まして・・・
直接・・あのお礼が言いたかった・・だけなんですけど」
激しく脈を打つ僕の胸。
「・・・・今は・・・学校・・ですけど」
そうだった。
今日は平日なのだからあたりまえか。
「すみません・・・あの、また改めてお礼に来ます」
僕はそう言うと
風が通り抜けるような速さでそこをあとにした。
額の汗がアスファルトに滴りおち、
すぐに乾いていった。
【0014】
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