8・少女


−おしごとがんばってください−


あの便箋は僕のロッカーの扉の内側にセロハンテープで貼りつけた。


仕事をやりだして思った・・・


誰かに励まされたり、褒められたり、
認められたりそういうことが無いな〜と。


ましてや学校に行ってたときのように、
通信簿や成績表で評価されることも無いけど、
生きててたまには誰かに認めてもらいたいって思うときがある。


短い手紙だけれど、
顔も知らない誰かが僕をどこかで見て励ましてくれてる、
それだけでうれしかった。


午前の配達が終わり、うどん屋で安いざるうどんを食べ、
局へ帰ってくると、局の裏で耕一が一服していた。


僕は昨日のことを質問攻めにあいやしないかと身構えた。


「昨日は楽しかったみたいだな」


「ああ」


「矢野がすげ〜嬉しそうにさっき話してた」


「うん」


耕一が吸っている煙草の先端から白い煙が左右に揺れて上昇していく。


いつもと調子が違う耕一。


「なんかあった?」


「いや。別になんも」


耕一はそう言うとズボンのポケットから
携帯灰皿を出し煙草を押し消した。


仕分け作業中も耕一は何か思いにふけっているような感じで、
静かだった。歩くスピーカーの耕一から音が出ないのが気にかかった。


黙ったまま仕分けをしていると、
手紙の山からあのごくごく薄い緑色の封筒を見つけた。


僕は手に取り、表を見ると僕がもらった手紙と同じ字。


だけど今回は切手が貼られ、
ひらがなで宛先と宛名が書かれていた。


僕はその手紙を耕一のいる側とは反対の手で
後ろ手に回しズボンのポケットに入れた。


耕一は全く気づいていない。


ロッカールームで封筒を見た。


あの後、誰にも気づかれないように
消印を押しポケットにしまっていたのだ。


宛先は僕が配達で廻っている地区、宛名には
「くにのりひなさま」と書かれている。


裏返すと封筒の端っこに
「くにのりひな」と書かれていた。


んっ、どういうことだ?


同姓同名の子なのか、それとも同じ人物が自分宛に?


明日配達しようと封筒をロッカーの中にしまった。


今日の仕事の終わりに局の表へ出て、
道路に落ちているゴミを拾っていると
「あの〜」と
かわいい声が僕のすぐ後ろでした。


振り向くと小花のプリントTシャツに
白のスカートをはいている少女が立っていた。


「どうしたの?」と声をかけながら、
ふと学校の名札に目が留まり、名札に「ひな」
と書かれた文字が目に飛び込んできた。

えっもしかして・・。


僕は矢継ぎ早にその少女に聞いた。


「僕に手紙をくれた子?」
少女は下を向き返事がない。


聞こえなかったのか、もう1度
「僕に手紙をくれた子じゃない?」と聞いた。


少女はすごく困っている。
泣きそうだ。


「・・・あの〜切手をください」
蚊の鳴くような小さな声でそう言った。


僕は少女の名札をもう1度見た。


苗字が違った。


「ごめんね。切手がほしいんだね」


僕は少女を局内に連れて行き、
矢野に切手をほしがっていることを告げた。


僕に手紙をくれた子はこの少女とたぶん同じぐらいかな。


明日、その子に会ったら手紙のお礼を言おうそう思った。


仕事を終え、
自転車で帰っていると遠くで雷鳴が響いていた。




【0010】

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