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春。

陸上部の和実はまだ部活を辞めていなかった。

一年の夏に付き合っていた彼氏と はすでに冬前に別れていたので、陸上に打ち込むことだけを考えていた。和実は 勉強をする人間ではなかったので、再試験を受けてギリギリ二年生になったのだ 。新しい陸上部員が入る季節。和実は女一人の事が多かったので、先生から聞い た女の子が入る噂にドキドキしていた。

 女の子は三人も入った。和実は嬉しかった。

そして、和実の春先最初の記録会は14秒23だった。その次は14秒50だっ た。全然伸びなかった。ただ、走る。それだけだった。

 ある日、先生は、部員全員を集めた。次の試合で何をするかの話し合いだった 。和実はもちろんいつもの種目にしようとしていた。だが、ほかの事にチャレン ジしたいという気持ちから、少し距離を伸ばしてみようと思った。

「先生、私、次200mに出たいんですが、200mと幅でお願いしていいです か?」

すると先生は

「400mやってみらんか?」

と、幅跳びの練習程度しかやっていない和実に質問を返した。もちろん、だから 和実は断った。なにせ、キツイ思いは練習以外でしたくないと言う気持ちがあっ たから。でも、中学の頃から陸上をしている後輩は、和実にこう言った。

「和実さん、200mも走った事ないんすか?自分ですらありますよ!」

そう言って笑った。とっさに和実は何を思ったのだろう。

「は?200もm400mも余裕やし!!!!先生、400mも登録してくださ い!両方でます!」

なんて事を言ったんだろう。そして、この頃の和実は300のタイムトライアル ですら、数回の経験しかなかった。練習ですら300mの距離を数えるほどしか 走っていなかった。春になってからの練習は、幅跳びの助走練習程度のスピード 練習だった。 

その後、先生は付け加えた。

「次は高体連だから、各自上手く調整するように。」

和実はやらかしたと思った。記録会と思っていた。高校生の醍醐味、インターハ イ予選とはしらずに、初めての二つ経験することになったのだ。和実は幅跳びの 練習しかしないまま、インターハイブロック予選を迎えてしまった。

 初日の400m。朝早かった。和実は後悔していた。

「なんて事を言ったんだろう。30mしか走れる気がしないし:::。気分悪い って言って棄権しようかな::。」

和実は送ってくれている父親の車の中でぼそりと愚痴をこぼした。

嫌だ。嫌だ。きついの嫌だ。そんなことばかり考えていた。

ついたらすぐにウォームアップだった。だから和実はアップをして、召集に行く 。女子は5組だった。試合は男子の方が先で、同じ部活の400m選手が和実に 声をかけてきた。

「さっさと終わらせて、苦しみよるの見よっちゃるけん!」

笑いながら、その子は走りに行った。戻ってきたその子に笑みなどはなかった。

ただ、苦しいといわないばかりの顔だった。400mを走る人の気が知れなかっ た。



【0006】

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