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 離縁を迫る妻の前に義之も呼び寄せて「お前は?」と訊くと、
にべもなく「お母さんと一緒に行くよ」
と旅行にでも出掛けるかのような軽い口調で言って立ち去るが、
息子にさえ僕の存在はそんな軽い物でしかなかったのかと、
心に寒風の吹く思いであった。


 家族に手を挙げたこともなければ呑んだくれたこともなく、
取り分けて恥じる行為をした覚えもない僕(多崎信哉)には、
倒産を余儀なくされた時点から何もかもが狂い出し、
妻や子の心までもが蝕まれてしまったのだと、
思えてならない。




【0001】

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