「今の話ナイショだぞ?誰にも言うなよ?カルラにもだからな。」

「どうして?」

「オレの口から聞かせたいからだよ。」

「……ふ〜ん、…誰から聞いたって同じ気がするけど…そういうモンなの?」 「そういうモンだよ。そのうちわかる。」

 みやはまだちゃんとは納得してないような顔で、それでも笑って頷いてくれた 。オレはそんな彼女の頭をもう一度撫でた。

 それからみやは“またね”って手を振って走って行った。

 タバコに火を点けて溜息をつく。 「…それがいつになるんだかなぁ…」

 自分の口から…なんて言ってみたけど、そこに辿り着くには程遠い気がした。  少しは心を開いてるかも知れないけど、彼女はまだ完全にはオレを信じてない 。過去を曝すコトを恐れてる。

 曝すコトがいぃコトなのかどうなのか、オレには判断がつかないけれど。

 だけど、今起ころうとしてる事態は話して欲しかった。

 しばらくして、カルラはオレの方にやって来た。

「ほら、ちょっとあっちで遊んどいで。お姉ちゃん、あのお兄ちゃんの相手して あげなきゃなんないから。」

 オレに向かって無遠慮に指差しながらそう言うと、周りにいた子供たちはあか らさまに不満な顔をした。

「えぇー、何でぇ?」

「いぃじゃん、もっと遊ぼうよぅ。今度はボクの番なのに〜。」

 ブーイングの嵐に、カルラはちょっと困った顔して苦笑しながら、オレをまた 指差して、

「ほら、あのお兄ちゃん見て。ヒマそうにこっち見てタバコばっかり吸ってるで しょ?ちょっとは相手になってあげないとかわいそうでしょ?」

 その途端、オレを見る子供たちの目が同情するような色に変わった。やがて“ 仕方ねぇなぁ”って顔して、諦めの溜息までつき始めた。

 オレってそんな不憫に見えるのか?

「ちぇっ、しょうがないなぁ。お兄ちゃんかわいそうだから、お姉ちゃん貸して あげるけど、ちょっとだけだからな?」

「そうだぞ、ちょっとだぞ。ちゃんと返せよな。」 「お姉ちゃんはオレらのなんだからな。」

 子供たちは口々にそう言って、どっかに走って行ってしまった。

「――オレ、取ったら恨まれんのかなぁ…」

「何か言った?」

 カルラは隣に座って、ひとり呟いたオレを見た。

「何でもねぇ。」

 オレは笑って首を振る。彼女は不思議そうに首を傾げて、それからオレの脇に 築かれたタバコの山を見つけて呆れた顔をした。

「ちょっと吸いすぎだよ?」

「――だって誰も構ってくんねぇからヒマなんだもん。みんなオレのコト物珍し そうにチラチラ見るだけで寄って来ねぇし。カルラはあいつらに夢中でオレなん かほったらかしだし。」

 恨みがましく言ってやると、彼女は苦笑いした。

 ちょっとさみしかった。オレの知らない彼女を見るのは、楽しいけどさみしか った。

 そりゃ、知り合ってからそんな経ってないし、お互い知らないコトなんてたく さんあるんだろうけど。

 あんな顔で笑うトコ、オレは見たコトない。

「あなたがタバコばっか吸ってるから怖くて誰も近寄れないんだよ。あなたの方 から入って行ったらいぃのに。絶対仲良くなれるよ。」 「…オレ子供の相手したコトねぇから慣れてねぇんだよなぁ。」

「そんなコト言って、さっきみやと楽しそうに話してたじゃない。何話してたの ?」 「……ナイショ。」

 オレが笑ってそう言うと、カルラは不審な顔をした。

 だって今はまだ言えるタイミングじゃないし。

「相手がいくつでも女の扱いには慣れてるんだね。もうナイショの話ができるな んて。」

 ひやかすような顔で彼女が笑う。

「…バーカ。そんなんじゃねぇよ。―カルラだってあいつらの扱いには慣れてる けど、オレの扱いなんてヒドいじゃねぇか。あんまり違うから何か悲しいぞ。」 「何よ?子供相手にヤキモチ?」

「――そうだよ。…だってオレのだと思ってたら実は他のヤツのだったら何か悔 しいだろ?」

「……子供みたい。…大体あたしあなたのモノじゃない。」

 カルラは呆れた顔で笑った。オレは苦い顔して笑った。  今はそうかも知れないけど、そのうちそうなってくれるんだろ?

 あんたの中にオレがいるなら。

「だって、あのコたちの笑ってるトコ見てたいじゃない。……これからあのコた ちにどんな未来が待ってるのかわかんないけど…できるだけしあわせで笑ってて 欲しいじゃない。あのコたちにだってそうする権利あるんだもん。」

 遠くで走り回ってる子供たちを眺めながら彼女は呟いた。優しいけど悲しい瞳 。

「どうして生まれて来るトコって選べないんだろうね?……もし選べたら…あた したちみたいなコいなかったかも知れないのに。…あのコたちは何も悪くないの に…生まれて来るトコを間違えられたばっかりに…辛い人生送らなくちゃいけな いなんてあんまりだよ。」 彼女が呟く。

 それは彼女自身にも言えるコト。

 孤児の中には事故など、親の不慮の死で院に預けられる場合だってあるけど、 この辺では食うに困って捨てられた子供たちが大半だ。

 カルラは悲しい瞳で、遠くを眺めながら溜息を吐いた。

「神サマがホントにいるなら…サボりすぎだよね。…ココだけでもこんなに助け てあげなきゃなんないコたちがいるのに…世の中にもたくさんいるのに…。ホン トに神サマが存在するなら、あたし職務怠慢だって訴えてやる。」

 そう言って、彼女は冗談ぽく笑った。

 彼女の呟きは、ホントの彼女の本音。彼女があの子供たちをそう思うように、 オレも彼女をそう思う。

 しあわせになる権利は、彼女にだってあるんだ。



【0027】

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