あのじじいがしずくと一緒にいなくなると、あたしは子供たちを連れて中庭に
向かった。ツグミは少し後ろを黙ってついて来た。
「はい、いーい?今からお姉ちゃん、みんなにあめ玉あげるからよく聞いてね?
」
子供たちは大はしゃぎであたしの周りを走り回った。
ココら辺では甘いお菓子は貴重品だから、このコたちにとってはごちそうみた
いなモンだ。
「みんなにちゃんと渡るくらいいっぱい持って来たから、小さいコから順番に並
んでちょうだい。―で、もらったコはこのノートに何か書いてくれる?」
「何書けばいぃの?」
「ボクまだ字書けないよ?」
あたしの言う通りに順番に並びながら、子供たちは元気よく尋ねてきた。あた
しは微笑んで質問に答える。
「何でもいぃよ。お絵描きしてもいぃし、習ったばっかの字でもいぃし、お願い
ゴトでもいぃよ。白いページにすきなだけ書いてちょうだい。―それからもうひ
とつ。このあめ玉はちゃんともらったひとが食べるコト。誰かにあげたり、取っ
たりしないでね?欲しい時はお姉ちゃんに言ってくれればちゃんとあげるから。
わかった?」
「うん、わかったー。」
「早くちょーだいよぅ。」
子供たちは“わかった”つて風に手を上げて、キラキラの瞳であたしにサイソ
クした。
あたしは子供たちに順番にあめ玉を配った。彼らは大喜びでそれを受け取って
、ノートに思い思いに書き込んでいった。
お絵描きに夢中になるコもいたけど、大半がそれよりも早くあめ玉を食べたく
て、書き込みもそこそこに散々になってあめ玉を食べてた。
うれしそうにあめ玉を食べながら走り回る子供たちを眺めるのは、とてもうれ
しい。この瞬間だけ、帰って来てよかったなって思える。
「カルラお姉ちゃん。」
ふいに声をかけられて、振り向くと“みや”がいた。
あたしに一番懐いてる女のコ。くりくりの目で笑ってる。
「みやも大きくなったねぇ。今いくつだっけ?」
「もうすぐ8才だよ。」
「そっかぁ、8才かぁ。」
無邪気に笑うみやの頭を優しく撫でて、あたしも笑った。
あたしがココに来たのと同じ年。
このコは3才だか4才でココに来た。その時からずっとあたしに懐いてる。
「ねぇお姉ちゃん、…あのお兄ちゃん誰なの?」
「ツグミだよ。同じガッコウの生徒なの。」
ただ純粋な疑問を口にした彼女に、一瞬何て答えるべきか迷ったけど、一番無
難な答えを返してみた。
彼女は、少し離れたトコでタバコを吸ってるツグミを眺めながら微笑んだ。
「すごいねぇあのお兄ちゃん。すごいキラキラしてる。…あたしあぁいうひと、
見たコトあるよ。」
「――どこで?」
「あのねぇ、絵本だよ。お姫サマを助けてくれる王子サマの話。あの王子サマに
お兄ちゃんそっくりなの。―あのお兄ちゃんは、お姉ちゃんの王子サマ?」
「え?」
くりくりでキラキラの瞳で、みやがあたしを見てる。無邪気な笑顔。
ツグミは何考えてんだかぼーっとして、走り回る子供たちを眺めながらタバコ
を吸い続けてる。
「んー…王子サマかどうかは知らないけど…大切なひとだよ。……あんなひと他
にいない。」
「そっかぁ。あたしにもそういうひと見つかるかなぁ?」
「もちろんだよ。みやならきっとすごいいぃひと見つかるよ。」
「ホントっ?あのお兄ちゃんより?」
キラキラの瞳を更に輝かせてみやは喜んだ。あたしは笑って頷いた。
きっと見つかる。
そう願わずにはいられない。ココにいるコたちは誰ひとり悪くない。何も悪く
ない。
だからしあわせになって欲しい。
カルラの周りには子供たちがずっと群がってた。
彼らに囲まれた彼女は、今まで見たコトのない優しい顔で笑ってて、しあわせ
そうで、だから余計に辛かった。
その笑顔の裏で彼女が何をやってるのか、あのコたちは知らない。何も知らな
いあのコたちを守る為に、カルラがどんなにヒドい仕打ちを受けてるのか、あの
コたちが知ったらどう思うだろうか。
カルラは小さい子供たちにあめ玉を配り終えると、年長のコたちの方に行って
、彼らにもあめ玉を配ってた。
その間に、オレのトコにひとり女のコが寄って来た。さっきカルラと何か楽し
そうに話してたコだ。ちょっと雰囲気がカルラに似てる。
「あたし、みやって言うの。よろしくね、ツグミお兄ちゃん。」
みやと名乗ったそのコは、屈託なく笑って、オレの隣に腰を下ろした。
「よろしくな、みや。」
オレも笑って、彼女の頭を撫でてやった。
「お兄ちゃんにとって、お姉ちゃんは大切なひと?」
「は?」
何の前置きもなく出されたストレートな質問に、オレはどぎまぎしてただみや
を見つめた。
くりくりの瞳は無邪気に笑ってる。そんな顔していきなり何なんだ?
「お姉ちゃんにね、お兄ちゃんは何なの?って聞いたら、大切なひとだよって答
えたからね、お兄ちゃんはどうなのかなって思って。」
「まっ、マジでっ?…ホントにそう言ったのか?」
みやに齧り付きそうなくらい顔を近付けて、彼女をまじまじと見つめた。信じ
られない言葉に心臓がバクバク言ってる。
みやはびっくりした顔で、それでもこくんと頷く。
「ホントだよ。ウソだと思うなら聞いてみたら?」
「……いやぁ…それはちょっと…」
聞いたトコで答えてくれそうにないし。
何よりそんなコト聞けるなら、とっくにやってるし。こんなバカみたいに、う
じうじもやもやしてねぇし。
「お兄ちゃんはどうなの?」
みやが不思議そうに小首を傾げてオレを見つめてる。心臓の音は、まだ治まら
ず鳴り続けてる。
遠くにカルラの姿が見えた。楽しそうに子供たちと遊んでる。
「うん。…すっげぇ大切なひとだよ。」
「――じゃあ、両想いだね。」
みやがうれしそうに笑うのをオレは黙って眺めた。
【0026】
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