第12話
朝早くあたしたちは部屋を出た。
ツグミはあの日からずっとあたしの部屋に居座り続けてる。何かするワケでも
ないけど、ただずっと一緒にいてくれた。
そんな彼に、あたしは帰れとは言わなかった。言えなかった。
彼がいるとあたしは安心して眠れたから。たまに怖い夢を見るコトもあったけ
ど、彼がいてくれるからまた安心して眠るコトができた。
孤児院行きも何度も止めようと言われたけど、それを承諾するコトはできなか
った。どうしても行かなければならないから。
彼にその理由を話すコトも考えなかったワケじゃないけど、それを話すにはあ
たしがどんなに汚れた人間かを彼に教えるコトになるから言えなかった。
彼には言えない。きっと失望するから。
あのひとみたく汚い女だと罵るだろうから。
あの時ツグミがどんな気持ちで2号を殴ったのか知らないけど、あたしはうれ
しかった。あたしを庇ってくれてるようで。
だから余計に言えない。あたしはホントに汚い女だから。
ホントのコトなんて言えない。
しずくと合流してあたしたちは駅に向かった。
北への交通手段は電車とバスしかない。バスは乗り継ぎが面倒な上に料金がや
たら高いから、あたしたちはいつも電車で移動してる。
切符を買ってあたしたちは北行きの特急に乗った。あたしとツグミはお金を払
ったけど、バイトをしてないしずくは学園発行の“J”専用フリーパスを使った
。
学園指定の場所じゃなくても旅費がタダになる“J”だけの特別パス。一般の
生徒にも発行はしてるけど、“J”とは違って半額負担だからあまり誰も利用し
ない。タダで行ける場所に行った方が得だろうから。
あたしもツグミも、それを使わずに普通にお金を支払った。
「今発てば、着くのは午後だな。」
しずくは独り言のように言って、席に着いた。
個室になってる指定席。ちょっと割高だけど、静かだし人目を気にしなくてい
ぃから快適。
「じゃ、あとは着くまでごゆっくり。」
しずくが笑って手を振るのを、あたしは不審な目で眺めながら向かいの個室に
入った。ツグミもあたしの後から入って来る。
個室は4人掛けだから一緒でいぃって言ったのに、しずくは何を考えてんだか
自分だけ別の個室を取った。
「気ぃ遣ってんだろ。」
ツグミは何かわかってるような顔で笑って、あたしの向かいの席に腰を下ろし
た。
座ってすぐに彼はタバコを取り出した。窓を少し開けて火を点けた彼は、何も
言わずにあたしにも勧めた。あたしも何も言わずに受け取る。
「しずくにバレちゃうかな?」
「そう言いながらちゃっかり吸ってるし。…オレの煙でにおい付いたって言っと
け。」
ツグミはケラケラと笑ってそう言った。
電車は時間通りに出発して、どんどん外の景色を変えていった。
あたしたちは流れる景色を眺めながら、タバコを吸って過ごした。
「えっ、5時間もかかんの?」
電車が出発して程なく、オレは彼女からそれを聞いて驚いていた。
カルラは笑って頷いた。
「電車での移動はね。そっからはバスしかないからそれに乗るんだけど、大体…
2時間くらいはかかるかなぁ。」
「えぇっ、そんなに?そんな遠いのか?」
あんまりオレが驚くからカルラは笑い転げた。
“だから言ったろ?”って感じの顔でオレを見て、
「来なきゃよかったって思ってる?」
って聞いた。
オレは苦笑して首を振る。
「いや、思ってないよ。…まぁ、そんな旅もアリだろ。」
「ホントかなぁ。まっ、院に着く頃にはもう二度と来たくないって思う筈だよ。
あたし毎回思うもん。」
カルラは窓の外を眺めながら笑って言った。
その言葉には、別のイミも込められてるようでオレには笑えなかった。
外の景色はどんどん寂しいモンに変わっていった。
学園は郊外ではあるけれど、一応首都に建ってるから景色は華やかだったけど
、そこを離れ北へ向かう程、窓から見える風景は褪せたようなくすんだような色
が目立つようになった。
華やかな色なんて存在しないような風景。
そうだ。オレたちはこんなトコで生まれたんだ。
日々の生活に精一杯で、夢など見ない貧しく殺伐とした町で。
途中電車は、オレの生まれた町も通過して行った。3才くらいまでしか住んで
なかったから、記憶も殆どないその町は、オレが考えてた以上に寂れてた。
あの頃はもうちょっとキレイに見えてたんだけどなぁ。
そう思うと、何だかちょっと泣きそうになった。思い出なんて殆ど残ってない
のに、何だか懐かしい気分で泣きたくなった。
カルラがいるからガマンしたけど。
「そんな顔しないでって、前にも言ったよね?」
ふいにカルラは、窓の外に目を向けて、優しい笑みを浮かべながら言った。
オレの様子に気付いたのかも知れない。
最近彼女は、そうやってオレが気付いてない時にオレの顔をじっと見てるコト
がある。視線に気付いて振り向くと絶対目を逸らすから、オレは気付かないフリ
をしてる。
黙って見つめられるのはちょっと恥ずかしいけど、少しでも彼女がオレのコト
を気にしてくれてるのがうれしいから、黙って見られてる。
「ほら、あめ玉あげるから元気出して。―そんな顔してると連れてかないよ?」
「こんなトコに置いてかれても困る。」
「じゃあ元気出して。」
彼女は笑って、オレにいつものあめ玉をくれた。
久々に食べたそれは、砂糖をかけたように甘い味がした。
【0024】
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