「―そういや、あいつから聞いたけど、今度二人で世話になった孤児院に行くん だって?」

「あぁ、うん、そうだよ。丁度10日後にあっちで祭りがあるんだ。それに合わ せて行こうと思ってるよ。―それが何?」

「ん〜、オレも行こうと思っててさ。」

「……キミが?あの…ホント何もないよ?」

 彼は目を思いきり丸くしてみせた。その顔には“何で?”て色が抑えもせず浮 かんでる。

「実はオレも北の出身なんだよ。あんたらのトコよりももっと南だけどね。…“ トウバン”てトコ知ってる?あそこの出なんだ。」

「あ〜…あの、昔呪術とかオカルト関係で栄えてた民族の本拠地かい?」

 さりげなく言ったオレの言葉に、彼はさらっと的確な問いを返して来た。さす がエリート。感嘆の思いを込めてオレは短く口笛を吹いた。

「すげぇ。知ってるヤツ初めて見た。昔って、もう百年も前の話だぞ?」

「一応この国の歴史は一通り勉強したからね。―へぇ、キミがそこの出身だった なんて驚きだよ。…まさか、キミのトコに女のコが寄って来るのは何かそういう 力使ってるとか言わないよね?」

 彼はいたずらっぽい瞳でオレを見て笑った。オレは苦笑して手をひらひらさせ る。

「ないない。…もう百年も昔の話だって言ったろ?今じゃそういう力とか話はタ ブーなんだぜ。」

「知ってるよ。ヤダなぁ冗談だって。キミのルックス見たらそんなのなくても女 のコが寄って来る理由わかるよ。」

 しずくは言って笑い続けた。

 そんな笑うコトないと思うけど。オレはちょっと呆れて彼を見てた。

「―まぁ、そんなワケで、あんたらのその出身のトコも直接行ったコトはないけ ど、知ってるから見てみたくてさ。いぃだろ?」

「いぃけど別に…でもあんまり期待しないでよ?ホントに何もないトコなんだか ら。」

「あぁ、わかってるって。」

 それがホントの目的じゃないから別にどうでもいぃ。オレは軽く頷いて話を進 める。

「―で、あんたらが世話になったって言う院長てどんなヤツなの?」

「?…うん、とっても素晴らしいひとだよ。」

 オレが何でそんなコト聞くのか彼はちょっと不思議に思ったみたいだけど、す ぐに答えてくれた。

「オレたちのコトを温かく迎えてくれて、ホントの家族みたいに接してくれてる 。優しくてあったかいひとなんだ。みんなに尊敬されてて、あの辺じゃみんなに 好かれてるホントにすごいひとだよ。」

 彼はうれしそうに目を輝かせて語った。  何の疑いも抱かないその瞳がちょっと羨ましい。カルラとの関係を知らなかっ たら、オレもそんな風に思えたんだろうか。

「…ただ、最近体調が芳しくないらしくてね。まぁ、元々結構な高齢だからなん だけど。病気の状況があんまりよくないらしくて。だから心配なんだけど…オレ もこっちの方色々忙しくてあまり行ってられないし。」

「そうか。……あんたも院長のコトえらく尊敬してるようだな。」

「もちろんだよ。あんなひと、なかなかいないよ。キミも会ったらわかるさ。」  そんな日は来ねぇよ。

 そう言ってやりたかった。もちろんムリだけど。  こんなに崇拝してたらとても言えない。

 もしカルラがしずくに助けを求めようとしてても、こんなんじゃとても信じて もらえないだろう。

 そんな考えは端からなかったかも知れないけど。彼女はきっと今まで誰にも助 けを求めずに生きて来たんだろう。

 誰も必要としないあの態度がそれを物語ってる。 「…あんたはしあわせだな。…そんな人間に出会えて。」

 呟いたオレに、しずくはちょっと不思議そうな顔で頷いた。  知らなければオレだってそんな風にしてられた。でももう知ってしまった。

 オレが自らそれを望んだんだから。

「キミに確認しておきたいんだけど。」

 彼は急に改まった顔でオレを見つめた。オレもつられて姿勢を正す。

「カルラのコト…本気なんだよね?もし、からかってるだけなら今すぐ止めてく れる?そんなコトするのは許さないよ。」

「……あぁ、わかってるよ。……たぶん本気。そうじゃなかったらあんたんトコ まで押しかけないさ。」  オレの答えに彼は微笑んで頷いた。安心したような顔で。

「じゃあいぃか。―あいつのコト頼んだよ。」 「…頼むって言われてもなぁ…あいつあんなんだしなぁ。」

「キミなら大丈夫だよ。オレなんかよりずっと経験値あるんだから。あとは向か ってくだけだろ。」

「簡単に言いやがるなぁ…その経験値が何の役にも立たないのかあいつだろ?あ んただってわかってるクセに。」

 しずくは優しく微笑んでそれ以上何も言わなかった。

 オレはそのまま彼の部屋を後にした。  頼まれたはいぃけどホントにどうしよう。

 重い気分のまま見上げた空は、能天気な程青かった。

 しずくの部屋をノックしたのはお昼少し前。

 ドアを開けたしずくは、あたしを見て変な顔して笑った。 「何かおかしい?」

「いや、ごめん。」

 しずくはそう言いながらも笑って、“ちょっと待って”っていう仕草をした。  中にはいつものメンバーが今日もいた。このひとたちは、しずくの部屋にいな い日はないのだろうか。

「え、また客?今日は一体何なんだ?」

 中から声が聞こえて、あたし以外にも誰か来たんだと知る。

 3人はぞろぞろ出て来て、来客があたしだとわかると、あめ玉を要求した。

 ナルシスト2号が何かあたしに話しかけてきたけど、適当にあしらってノート を受け取り中に入った。



【0020】

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