しずくの頭越しに中を覗くと、男が3人こっちを伺ってた。おなじ“J”の連 中なんだろう。一人はメガネの陰気な感じの男で、あと二人はちょっと雰囲気が 似てて見分けがつかない。何ていうか、タイプ的にはオレに近い気がする。 「あ、ツグミだ。」

「ホントだ。―しずく、こんなヤツとも付き合いあんのか?」

 陰気メガネと同胞の片割れ(かどうかは知らない)が、オレに気付いて口を開 いた。しずくはそれに答えずに、そいつらに速やかに退席を願った。

「へぇ、エリートさんの間にまで顔知られてるなんてオレってすげぇ有名人?」 「あたりまえだろ。あんなに派手に動き回ってて知らない人間なんているワケな いさ。それに“J”にもキミの“友ダチ”が何人かいるじゃないか。」

 オレが笑って声をかけると、陰気メガネが嫉妬する風でもなくひやかすような 目でオレに返した。

「さぁ、悪いけど一度出てってくれる?終わったら連絡するから続きはそれから にしよう。」

 しずくが言って、3人を立ち上がらせた。彼らはのろのろとオレのいる入り口 の方に出て来た。

「おまえ最近カルラにつきまとってるみたいだけど、何なの?」

 3人のうち、一番最後に出て来たもう一人の同胞が、やたら敵意の籠もった目 でオレを見ていた。

「あんたに言う必要ある?」  とりあえずオレは、笑いながら軽く流す。

 オレより少し背が高い、金髪の男。右目の下にホクロが2つある。彼の瞳は敵 意を緩めるコトなくオレを見てる。

「遊びなら他の女でやってろ。彼女にちょっかい出すな。」

「随分な言い様だけどさぁ、あんたこそ何なの?オレあんたの話あいつから聞い たコトないけど。あんた誰?」

 鼻で笑って言い返すと、彼はおもしろい程顔を赤くした。やたら怒ってる。思 わず笑いそうになるのを何とか堪える。 「おまえに言う必要ねぇよ。」  そう言って彼は行ってしまった。

 ――ほら、こんなトコにもいるじゃないか。あんなムキ出しにして。

 まぁ、探りを入れたくなる気持ちはわかる。オレもそれをしに来たトコなんだ から。

 中に入って、遠慮なく腰を下ろした。いつ見てもエリート寮はムダに豪華だ。 こんなに差別する理由はどこにあるんだろう。 「あいつの部屋から直接来たのかい?」

 冷たいお茶を出しながら、しずくは尋ねてきた。 「ん?―あぁ、何でわかった?」

「カルラと同じシャンプーのにおい。」

 彼はオレのまだ少し濡れた髪を見ながら微笑んだ。オレは納得して頷く。

「で、実際のトコどうなってるの?さっきミシェルも言ってたようにさ、最近随 分あいつと一緒にいるようじゃないか。バスルームを使えるならもうかなり親し くなったのかい?」

 静かで優しい口調には、さっきの“ミシェル”とか言う男のような尖ったモン が感じられない。それは余裕アリってコトなのか。

 おれは苦い顔で首を振った。

「まだ全然だよ。親しさで言ったらあんたのがあいつに近い。バスルームは…ま ぁ、たまたまって言うか…成り行きって言うかで使わせてもらえただけだ。何に もない。」

「……ふーん…でもオレはたまたまも成り行きも起きたコトないけどなぁ。バス ルームなんて使わせてもらったコトない。」

「何だよ、嫉妬か?」 「そうだよ。」

 彼は爽やかに笑って頷いた。その顔で言う台詞じゃないと思うんだけど。唖然 とした顔でオレはその表情を受けとめる。

「孤児院にいた3年でやっとこの距離になったんだ。そっからはずっと変わらな い。…なのにキミはもうあいつの部屋に上がり込んで、たまたまでもバスルーム が使えるだけの距離にいる。…嫉妬しない方がおかしいだろ?」

 彼はあくまで優しい口調でそう言って、涼しげにお茶を飲んだ。悟りを開いた ひとみたいだ。こいつが怒り狂ったりするコトなんてあるんだろうか。 「オレたちの関係を探りに来たんだろ?…ならオレたちは何でもないから気にし ないでキミの思う通りにやればいぃよ。」

「え、でも…あんたは?」

 オレの問いに、しずくは初めて瞳を曇らせて切ないような顔をした。

「うん。……もう諦めたんだ。見込みがないって判断して。もう何年も前だよ。 …あいつ、警戒心ハンパないだろ?」 「あぁ。…全然手出せねぇな。」

 オレが答えると、しずくは笑った。つられてオレも笑った。

「ほら。キミで手が出せないんだもん。オレができるワケないんだ。あいつは近 付くだけ攻撃が激しくなるだろ?…ちょっと近付けて調子に乗って…もうちょっ と平気かなって思った途端、撃ち込んで来るんだ。手痛い一撃を。」

「―あぁ。オレも何度か食らってる。」

「もう?…キミすごいな……オレはそんなに傷付くのに慣れてないから…あれ以 上一歩も踏み込めなかったよ。あいつはオレに懐いてるかも知れないけど、ただ それだけだ。…それくらいの仲さ。」  しずくは悲しい顔で微笑んだ。

 オレもそんな顔してるんだろうか。カルラの前で。  彼女は絶対にオレの目を見ないから気付かないだろうけど。

「あいつの昔のコト、あんたは知ってるの?」

「知るワケないだろ?…何にも話さないんだから。そこは不可侵領域だ。踏み込 むとものすごい攻撃を受けるコトになるよ。…オレ一度食らったから。」 「……そうか。」

 力なく笑うしずくに少し同情した。

 でも、そりゃそうだ。あんなコト簡単に話せる筈ない。

 一生胸の奥深くにしまっておきたいコトだ。それもきっとヒドく辛いだろうけ ど。



【0019】

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