「…もっと口開けてくれない?」
「そんなにしなくても入るだろ。」
「―いぃから。」
心臓がちょっと早くなって手が震える。
この前彼にこんな風に食べさせた時、唇に触れてしまったのを思い出してた。
久々に触れた他人の肉の感触は、いつもと少し違う気はしたけど、あたしには
どちらにしても怖いという感覚しかなかった。
震える手に彼が気付かないコトを願いながら、あたしは彼の口にあめ玉を運ん
だ。
彼は違うトコを見ていた。その視線に気を取られてて、手を引っ込めるのが遅
れたあたしの指は、彼の唇に挟まれた。
「――っ」
聞こえるか聞こえないかの小さな悲鳴をあげたあたしの体が大きく震えて、慌
てて手を引っ込めた。
「っ悪い、ヨソ見してて……」
「ううんっ…あたしもちょっとぼーっとしてて……」
彼が慌てて言うのを、同じように慌ててあたしも言い返した。
あんなに過剰に反応したら変に思われてしまう。指先に残る彼の感触を消そう
と、テーブルの下であたしは必死に血が止まるくらい強く指を握ってた。
「―そろそろ出るか。」
彼はあたしにノートを返して立ち上がった。
何事もなかったかのようなその顔に、少しホっとしてあたしも立ち上がった。
カルラの放り込んだあめ玉は、やっぱり切ない味がした。
冷たい指先の感触が離れない。
あの瞬間、彼女の体は思いきり震えた。オレはそれをはっきり見ていたけど、
気付かないフリをした。
彼女がオレの様子を気にしてたから。
オレたちは、その後も殆ど会話もせずに彼女の部屋で過ごした。
アマリリスはいつもの場所に座って、たまにイミありげな視線をオレに送って
きた。
カルラはずっとベッドに寝転がって本を読み続けてて、オレは何をするワケで
もなく彼女の部屋のパソコンでネットを繋いでみたり、テレビを見たりしてた。
「タバコ吸ってもいぃか?」
部屋に入ってからずっとガマンしてたけど、さすがに辛くなってきて彼女に申
し出ると、彼女は笑って頷いた。
「ごめん、全然気付かなかった。もっと早く言えばいぃのに。」
彼女はゴミ箱から空き缶を取り出して、テーブルの上に無造作に置いた。
「あんたも吸うか?」
「じゃあ一本。」
彼女は頷いて、タバコを受け取った。
いつものやり方で火を移す。
キスのような火移し。一瞬だけ近付く距離。
それがオレを深みにハメさせていく。
彼女がゆっくりとオレから顔を離して煙を吐き出すのを、オレは少し切ない気
持ちで眺めた。
その後もオレたちはたまに会話をするくらいで、あとはタバコを吸うか黙って
それぞれのしたいコトをするという方法で過ごした。
途中、夕食を取りに寮内の食堂に行った。
休み中だからひとはまばらで静かだった。みんな旅行にでも行ったんだろう。
たまに知り合いのコに話しかけられたけど、オレは適当にあしらってカルラか
らは離れなかった。彼女はそれについて特に何も言わなかった。食事を済ませて
、オレたちはまた彼女の部屋に戻った。
彼女はちょっとうざったそうな顔はしたけど、やっぱり何も言わなかった。
その後もずっと同じ調子でただ時間だけ過ぎてった。
「―ねぇ。…あたし眠くなってきたんだけど。」
読んでた本を閉じて、彼女は眠そうな顔でそう言った。
「じゃあ寝ろよ。あんたが寝たら帰るから。」
「……あたしひとがいると眠れないって言ったよね?」
カルラはちょっと困った顔でオレを見やった。
オレは笑って、
「大丈夫だって、寝れるって。目閉じてたら自然に眠くなるって。…試しに30
分そうやってみろよ。オレ、ココにいるから。」
って、根拠もないのにわかったようなフリで言ってやった。彼女は完全に疑い
の目でオレを見てる。
「…それで寝れなかったら?」
「そしたら帰るよ。」
溜息を吐いて彼女は何かを諦めたように布団に潜り込んで、部屋の明かりを消
した。
「――30分だからね。」
彼女は呟いて頭まですっぽり布団を被った。
何かから隠れるような格好。こうやって彼女は夜を過ごしてきたんだろう。
ひとの気配に怯えながら。
夜、彼女の元に訪れるのは、彼女にヒドいコトをする人間だけだ。それを思う
と苦しくなる。
なぜ彼女が選ばれてしまったのか。彼女が何をしたと言うのか。
教会で祈りを捧げる彼女の背中。神サマなんて信じてないと言った彼女。
“みんながしあわせになれますように”と笑った彼女。
あれはウソだと彼女は言ったけど、それはウソだ。あれが彼女の本心なんだ。
でもそのために自分が犠牲にならなくても。誰にも助けを求めず、ひとりで背
負わなくても。
そうしなきゃいけない責任なんて彼女にはない。
彼女は何も悪くないのに。何も悪いコトをしてないのに、どうして罰を受けな
ければならないのか。
【0015】
次へ
戻る
あなたも小説を投稿しませんか?短い内容でもOKだよ!→
投稿ホーム←
☆DISマガジン登録☆
キャンディドロップの甘い願いTOPへ戻る
ト襯iscovery覽OPへ戻る
(c)携帯小説襯iscovery