第2話-2



どうってどう?いきなり何なの?

 ワケがわからないままに、とりあえず率直な感想を述べてみた。

「ん〜…無条件にかわいぃと誰もに思ってもらえるような、あいされキャラでは ないですよね。…これ何ですか?ウサギ?」

「さぁ。…何なんだろうね?」

 彼の答えにあたしは笑った。

 彼もくたびれた顔で笑った。

「何か腹黒そうですよね。何考えてんのかわかんない感じ。…まぁ、それでもど こか憎めないかわいらしさがあるかなぁ。」

 感じたままにあたしが答えると、彼は大笑いしてそのぬいぐるみに当然のよう に話しかけた。

「―だってよ。…ホントにこのコでいぃのか?―って言っても、もうオレにはお まえさんの声は聞こえないんだよな。おまえさんが決めたコトなんだし…オレは その指示に従うのが最後の役目なんだよな。」

 そうぶつぶつ呟くおじさんを、あたしはかなり引き気味に眺めてた。

 いぃ年こいたおじさんが、ぬいぐるみに話しかける光景はなかなか怖い。

「これ、キミにあげる。って、言ってもオレのじゃないけど。」

「は?」

 おじさんはあたしに、ぬいぐるみを半ば強引に受け取らせた。

 持ってみると意外に重くてあったかかった。生きてるんじゃないかって一瞬ぎ ょっとしたけど、それは動かなかった。

「…何なんですか、これ?」

「さぁ。…オレもとうとう最後までわかんなかった。」

 おじさんは微笑んで、脇にあった袋もあたしに押しつけた。

「…こっちは何ですか?」  更にワケのわからないあたしは、困った声でおじさんに尋ねた。

「こいつのオプションだ。大切に扱ってくれよ?」

「あの、でも…」  戸惑うあたしに構わず、おじさんは立ち上がった。

 あたしの抱いてるぬいぐるみを愛おしそうに撫でて微笑むと、あたしの方に目 を向けてちょっと不憫そうな顔をした。

「悪いね。聞きたいコトはいっぱいあるだろうけど、言っちゃいけないルールな んだ。そのうちわかる筈だからよろしく頼むよ。」

「や、…あのっ」

 彼はさっさと会計の方に歩いて行った。  慌てて追いかけて、彼の背中に声をかけた。

「おっ、お名前は?」 「そいつの名は“アマリリス”だよ。」

「いやっ、そうじゃなく、あなたのっ」

 おじさんは静かに笑って首を振った。

 やがて会計を済ませた彼は、手をひらひら振りながら出口のドアに手をかけた 。

「聞いてもイミないよ。キミにはもう二度と会うコトがないから。」

 そう言って、おじさんは笑いながら出て行った。

 それが始まり。

 全ての始まり。



「大丈夫ですよ。わたしがあなたの願いをちゃんと叶えてあげます。」

 静かにアマリさんはそう言って微笑んだ。

「だからあなたはその為にキャンディを配ってノートを全部埋めてください。そ れが約束です。」

「だからそれがよくわかんないんだよぅ。あたしの願いって何?あたし別に願い なんてないんだけど。」  苦い顔で溜息を吐いた。

 確かにあの日アマリさんは言った。  “あなたの願いを叶えましょう”と。



妙なおじさんから妙な贈り物を受け取らされた翌日、物音で目を覚ましたあた しが見たのは、室内を物色して回るぬいぐるみの姿だった。

 彼は我がもの顔で、冷蔵庫に入れてたあたしのお菓子を食べ散らかしてた。

 あたしがものすごい悲鳴をあげたのは言う間でもない。

「わぁお。びっくりですね。おはようございます。」

 言う程びっくりした様子もない彼は、そう言って口をもぐもぐさせながらぺこ っとお辞儀した。

 それがあんまり自然だったからあたしも、 「おはようございます。」

 って頭を下げた。  それからハっとして頭を振った。

「そっ…そうじゃないっあなた何?昨日動かなかったよね?何でお菓子食べてん の?何で話せるの?」

 確かに昨夜は動いてなかった。て言うよりそんなの気にしてなかった。その日 のバイトはかなりキツくて、あたしは部屋に戻るなりベッドに倒れこむようにし て眠ってしまったから。

「わたしは“アマリリス”です。昨日彼もそう言ったでしょう?」

「いや、そんなコト聞いてないしっあなたは何なの?何しにあたしにもらわれて 来たの?」

 彼は到って冷静に、冷蔵庫に入ってたミルクティを飲んで満足そうに笑った。 この際それがあたしのだなんてコト構ってられなかった。

 やがて彼は陽当たりのいぃ窓辺の棚に、飛び乗って腰かけた。

「厳密に言うと、わたしがあなたにもらわれたのではなく、あなたがわたしに選 ばれたんです。」

「はぁ?何のコト?何に選ばれたの?あたし何も応募してない。」

「わたしが願いを叶える相手にあなたが選ばれたんです。あなたの意志など関係 ありません。」

 彼は言ってまた微笑んだ。紅い瞳が楽しそうに揺れていた。

「…願い?」  殆どイミなど理解せずに、その単語を口にしていた。

 彼は頷くと、あたしに“おいで”って手招きした。びくびくしながらあたしは 、ベッドからおそるおそる出て彼のそばに寄った。

「ちょっとそのまま黙っててくださいね。」  そう指示すると目を閉じて、柔らかそうな肉球のついた手をあたしの胸に押し つけて、何かぶつぶつ呟きだした。そしたら突然、あたしの中から何かキラキラ 光る塊みたいなモノが出てきた。彼はそれに触れて、更に何かぶつぶつ言った。  そうしたら今度はその塊から何かが床に転がり落ちた。

 コツン、  という硬く軽い音が足元の方から響いてきた。

 それは一粒のあめ玉だった。  彼はそれを見るとうれしそうににっこり笑った。

「ほぅ。これはまたかわいらしい。…これがあなたの願いなのですね。」

「―イミわかんない。…あめ玉はキライじゃないけど…別に食べたくない。」

「これはあなたには食べられません。あなたはこれを配るんです。」

 あたしが質問するよりも早く、彼はキラキラの塊を持ったままで棚からピョン と飛び降り、昨日おじさんから渡された袋のトコまで軽快に歩いて行った。 そしてその袋に塊をしまうと、中からやたらに分厚い本みたいなモノを取り出 した。

茶色の革張りの表紙には、何も書かれていない。

「それは何なの?」

彼はそれをあたしに手渡すと、あたしの役目や注意事項をいくつか簡単に説明し た。

あめ玉を配って、ノートに何か書いてもらうコト。あめ玉の数に制限はなく、 一人に何コでも配って構わないけど、その分は必ずもらった本人が食べ切るコト 。つまり、他人にあげてはいけない。それを配った相手に説明するコト。あめ玉 はあの塊から毎日勝手に出てくるらしい。

あとは余計なコトはしゃべらないコト。

「このノートを最後のページまで埋めてください。それがあなたの役目です。」

あたしは渡されたノートに目をやって開いてみようとした。

だけど開かなかった。

それを見てたのか、彼が笑ってあたしに言った。

「あなたには開けられませんよ。」 「―どうして?」

「あなたはキャンディを受け取ってませんから。」 「だってさっきあたしは食べれないって言ったじゃん。」

「えぇそうですね。まぁ、仮にあなたがキャンディを持っていたとしても、結局 それは開けられません。」 「だからどうして?」

まどろっこしい言い方にイライラして、あたしの声が少し大きくなった。

彼は全然気にする風でもなく、微笑んであたしを見つめた。

「そういうルールだからです。あなたはキャンディを配ってノートを埋めてもら う。それがルールです。」

彼の表情は終始にこやかで、紳士的だった。それでいて、肝心な話を全然教え てくれないし、すごくいかがわしい。

だけど、従わないとヒドい目に遭わされそうな予感をさせる威圧感があった。 「約束しますよ。」

彼は紅い目を細めてにっこり笑った。

「このノートが全て埋まった時、あなたの願いを叶えましょう。」



【0003】

次へ

戻る



あなたも小説を投稿しませんか?短い内容でもOKだよ!→

投稿ホーム

☆DISマガジン登録☆
キャンディドロップの甘い願いTOPへ戻る

襯iscovery覽OPへ戻る

(c)携帯小説襯iscovery