記憶の糸 任侠(9)


私が26歳の時 父は
逝ってしまった


この父の死は 実は
私が殺してしまったようなものである


その話しは次章で述べる事にする


父が亡くなった
お通夜に 叔父さんが現れた


その時に私は 初めて父が指を落とした真相を知ったのだ


小学二年生の時の出来事である


出刃包丁と血だらけの台所の床を母が
憎しみを込めるように拭いていた姿………


切なかった……

悲しかった……

悔しかった……


叔父は 黒縁の額を見て 目を細めながら 語り始めた
「あの時は本当に済まんかったねぇ〜姉ちゃん…!」


私の母に深々と頭を下げながら言った
そして私に向き直り叔父は続けた


「あんねぇ〜ケンジ 兄貴が指を落としたのは俺の責任なんょ〜
ワシの嫁が病気になってね 命が保たんて
医者に云われて あん時 金の相談を兄貴にしたら……


10日程 経って家に呼ばれてねぇ〜


『これを持って帰っちゃれ!こらぁ 早よう行かんかぁー』
云うて封筒をワシに渡してくれたんや


中を見てビックリしたんをワシわ忘れんわぁ〜
60万 入っとった


あとで 姉ちゃんに聞いたら
兄貴が自分の親指を叩き落として作ってくれた金やったんょ……


なぁ〜姉ちゃん!


ワシの嫁の入院費に云うて……
それ聞いたらワシわ 自分が情けのうてなぁ」


父は あの時 弟である叔父の為にと自ら保険を
掛けていた指を落として 金を作ったそうである


指を落とした
その時の父が笑っていた顔が何故だったのか私は確信をした


それは父自身の納得の証しではなかったのだろうかと………




【0051】

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