決意も新たに、シリアルの中の木の実を噛み締める撫子へ、「ああ、そうだ」と、母はいかにも今思いついたふうな、軽い口調で話しかける。

「天気予報じゃ、夕方まで雨が続くらしいわ。秀も、撫子も、退屈するわね」

ガタン、ゴトンとつぶやく秀が、撫子の足元まで、ミニチュア電車を走らせる。

「ぼく、もう退屈だよ。お姉ちゃんのご飯、まだ終わらないの? 」

「もうちょっと、待っててよ。それより、秀。明日まで外へ出られないんだって。ねぇ、なにして過ごそうか? 」

秀の問いかけを、母が横からすくって、返事をかえす。

「テンちゃんを呼んで、家で遊んだら? 」

椅子からお尻がズリ落ちて、秀の電車を蹴飛ばしそうになった。

だって、母が「クリスティンちゃん」でなく、「テンちゃん」と呼んだのだから!

テーブルの下で遊ぶ秀から「お食事中に、ふざけちゃダメだよ」との、小言をもらう。撫子は体勢を立て直して座り、ありったけの元気を込めて「うん! わかったよ、秀♪」と声を弾けさせた。

「子供同士がこれほど仲の良い友達なのだから、私も、テンちゃんのお母さんと、もっとご近所付き合いをするべきだったのよね」

(お母さんが、変わろうとしている)

卑屈がもたらす差別の心を捨てて、真っすぐ生きる努力を始めた母。撫子のまなざしに、がぜん尊敬の念が浮かぶ。

コンロ磨きを済ませた母は、エプロンの端で手を拭きながら、撫子と向かい合わせにテーブルへと着いた。

「それから、今夜なのだけれど……お父さんが帰ってきたら、お母さんの実家のことで、撫子と秀に大事なお話があるの」

撫子は自分の思いを、母へと伝える時が来たと感じた。チャンス、到来! とばかりに、浮いてくる気持ちを抑えながら、口を開く。

「お母さん、夏休みに入ってから、まだ十日くらいしか経っていないんだけど。私ね……秀を助けてくれたタクくん……矢崎くんと、新しくお友達になったおかげで、短い間に、難しいコトをいっぱい学んだの。今夜、私が考えていることも、お父さんとお母さんへ話すから、全部聞いてね」

力強いうなずきを、母が返す。

差別のボールを捨てた母へ、撫子は、まずは自分が優しさ色のボールを手渡すのだと、熱く、熱く、心に決めた。



【0045】

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