私は慌てて、

「秀なら大丈夫よぉ」

とテンちゃんへ向けて、手をヒラヒラさせた。

「一日くらい、放っといても大丈夫よ。秀にだって、宿題があるのだし」

 大体、母が遊びに連れて行ってくれたっていいのに。撫子の頭の中で、母への不満がいつもながらにムクムクふくらむ。

 秀が小学校へ入学するまでは、朝から晩まで「秀くん、秀くん」だったのにさ。

 選挙前の政治家が、力強くスローガンを掲げるように、家でも、発達の相談所でも、息まいて拳を上げ、この言葉をほえた。

「普通学級へ入れてあげなきゃ! なんとしても発達させなきゃ! 」

父はと言えば、「ふぅぅむ」とうなり、母と秀を見比べるだけ。秀の発達に関しては、本当に「よく分からない」ようだった。

 毎日の努力は実を結び、秀はポツポツと話せるようになったのに、結局、母は断念しなければならなくなる。同級生になるはずの気の強いお母さんたちから、秀が普通の学級へ入学するのを反対されたのだ。かなりキツイ事を言われたのか、母はどっぷりと落ち込み、父へと相談した。

「お前がゴリ押しすれば、秀への風当たりが強くなるんじゃないのか? 」

 日頃、子供に関わらない父なのに、この時だけは、キッパリと言い切った。

 気弱になっていた母は、父の協力無しで、他の親たちを説得するのは無理だと諦めたのだ。

 この頃から少しずつ、秀のお世話係の役目が、母から私へとバトンタッチされた気がする。普通クラスと、擁護のクラス。どちらが良かったかなんて、子供の私には分からない。

けれど、できれば秀を、もっと色んな子と遊ばせてあげたいな。よくよく話せば、案外、秀って面白い子なのに。



【0020】

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