「ねえ、エミちゃん」

 切り出したのは、テンちゃんだった。彼女はひまわりのように、まっすぐお日さまへ向かって胸を張る。

「人間が火星へ移り住めるかもしれないって、テレビでやってたの見てないの? この宇宙時代に、いまさらブルーなんてどうでもいいじゃん。数百年も昔の、地位だけが高い人間が勝手に決めただけなブルーの地位制度を気にするなんて、カッコ悪く無い? 」

「だって。本当にアソコの地区は喧嘩とかも多いって聞くよ。それはウソじゃないもん」

「エミちゃんがウソツキなんて、私、思ってないよ。そこに生まれただけで悪い人だって決め付けて、それを言いふらす大人たちがウソツキだって言ってんの。エミちゃん、大人を信じすぎ! 大人だからって、ぜんぶ正しいとは限らない。でしょ? 」

 ギラギラする陽を顔に受け、片手を腰に当てて肩をそびやかすテンちゃんは、とても堂々と見える。向かい合うエミちゃんは、ハンドルに腕をのせて、じっと考え込む。

 私は話がよく読めないなりにも、ブルーというのがどれ程大変な単語なのかは理解できた。テンちゃんとエミちゃんに挟まれて、手にじっとりと汗をかく。熱くうだる私の体の中で、心臓だけが冷えて固まりそうだ。自転車のハンドルへ向いていたエミちゃんの真剣なまなざしが、ふっとテンちゃんへと戻る。

「あのね、もしも違ってたらゴメンネ。テンちゃんのお父さんって、ブルーの人だったの? 」

 キリリとしていたテンちゃんの口元が、たちまちに歪み、私のハラハラもピークに達する。

「私の父は違うわよ! 」

 (テンちゃんのお父さんの話は、いつも一緒の私でさえ、出さないようにしてるんだよ)

 そう言ってエミちゃんを止めたいけれど、テンちゃんの前ではそれもできない。

 エミちゃんは再び挑むように、太く静かな声で、テンちゃんへ言った。

「だったらアソコの人たちを、かばったりしない方がいいよ。テンちゃんもブルーなんじゃないのかって、勘違いされちゃうよ」

「そんな……」

「テンちゃんが言ってる方が正しい、とは私も思うけど。でもその意見、確実にソンするよ。ブルーに間違われたくないのなら、人前では絶対に言わない方がいい。ゼッタイにね」

 迫力のこもった「ゼッタイ」だった。ふだん教室でのエミちゃんは、花壇の花や、生き物のお世話を喜んでやっている穏やっている癒し系なコなのに。

「撫子ってば、変な顔しないの! 私、テンちゃんとケンカしているつもりは無いよ。テンちゃんのために、言って上げてるだけなんだから」

「エミちゃん……」

「いっけない! ピアノ教室の時間がギリギリになっちゃった。じぁあ、またね」

 アスファルトを右足で蹴って、エミちゃんの自転車はシャーと音立てて行ってしまった。



【0010】

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