X 贖罪への道
移動する廊下。友達と、ふざけ合う校庭。あくびの出そうな全校集会。
いつからだったけ?
ふわっと潤んだ瞳が、教室外での、自分の行き先を追って来る。
香月は幼稚園の時分から、女の子に浴びせられる視線なら慣れっこだった。なのに困惑するのは、その娘が、親友である沖の想い人だから。それに、いつか彼女を作るのならば、覇気のある、一等目立つタイプの娘と決めていた。
いくら濃い睫や、艶のある髪が印象的であろうとも、ぼんやりした娘と二人きりでは、長い時間を過ごせそうもない。
父も、スポーツ・ニュースを晩酌のつまみとして観戦しながら言ってたし。
「母さんや、姉さんみたいに、女は年中ワァワァ騒いでくれた方が、楽しいに決まってる。なあ、聖」
女子だけでなく、男子からも人気があると自負していた。
校外にだって友達がいるし、家の中ではギャグばかり。曇り知らずの生活を、このままガンガン続けていけて当然と思っていた。
夏休みに、倉本からの電話を受けるまでは。
「ちぃっとばかし、話があるんだけど、明日来てくんないかな? 」
いくら相手が学力優秀な生徒であろうと、これまで喋った事のなかった三年生からの呼び出しには戸惑いがあった。
一人きりで来いと言う。断れば、それはそれで二学期に、どんな態度に出られるか心配だ。
不安感を抱えながらも、相手の指示に従い、出かけた。
「ジャリ一年の癖して、三年の女にもキャーキャー言わせて、調子コイてるらしいな」
的中しすぎた、悪い予感。
指定された場所は、学校裏の林道。
着けば中学生とは思えない体格の連中が、倉本を除いて、五人。逃げ出す暇などない。立て続けに腹へ、腰へ、背へと蹴りをくらう。
これまで友達と殴り合いをしても、それは後にしこりを残さない、一対一の喧嘩であった。これは喧嘩などの、生やさしいモノと違う。
圧倒的に体格負けする人間たちから、五人がかりで蹴りまくられるのだ。
事態を明確に飲み込めないまま、香月は、体を海老のように丸めて転がった。口中を噛んで出血し、「ぶほっと」赤い唾を吐く。
「今日の所は、そんくらいでイイっすよ」
制止したのは、木へ寄りかかり、一人ニヤニヤと皮肉めいた顔で物見高くしていた倉本だった。
「わるいっすねぇ、先輩。ヤリ足らないだろうけど、コイツ使えそうな奴だから、潰しちまわないようにしときたいんですよ」
「いいさ、気にすんな。もともと、おまえの頼みでヤッてんだから」
香月を一番初めに殴った男が、額で光る汗を腕で拭って身を引くと、後の四人も、従うように後ろへ下がる。ほっとする間もなく香月は、倉本から耳を引っ張られ、顔を前に上げさせられた。
【0073】
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