「ハハハハ! そんなこたぁ、コイツはとっくに知ってるさ。こんな弱っちぃヤツを頼って、どうしようってんだよ。コイツに出来るのはこのくらいまでだろう。なぁ、香月? 」

 香月は、肩に回された腕を払わなかった。言うも、するも、含みがたっぷりな態度の倉本へ、反論もしないでいる。
ただ辛そうに、藍子から背けた顔をうなだれさせた。

「おい太田。俺とおまえが学校裏の林でヤッた、あの日を覚えているよな」

「やったなんて……変な事言わないで! あれから、どんなに私が苦しんだと思ってるの」

 藍子の訴えは、倉本の、たぶん有りはしない良心へは、やはり届かない。倉本は嬉しそうに言葉を繋いだ。
「いいから聞けよ。あの時な、このヤサ男の香月くんが、なぜ林の入り口に居たのかを教えてやるから」

「なぜって……香月くんは、あなたから酷い目に合わされたせいで川へ飛び込んだ私を、助けてくれて……」

「はぁ? ハハン、おまえね、しらばっくれて、そんなカッコつけた真似してたのか」

 立ち尽くす香月を、藍子は、悲愴な想いで見つめて問うた。

「林道の入り口にいたのは、偶然じゃなかったの? 」

 涼やかな目元が、泣きそうに歪む。倉本が横槍に答えようとする。
「いいか、太田。コイツは俺と、たいして変わんねぇんだよ。なぜなら……」

「倉本先輩! 俺が、自分で言いますから」
 倉本と香月の明らかな上下関係は、改めて藍子の胸を裂いた。


 香月の根底を澱ませていたのも、倉本だったのだ。
 事実を知って、裂かれた藍子の心から溢れ出したのは、共感と、愛情。あふれて、沸き出て……止まらない。
「香月くん。私、聞くよ」


 藍子は、ブーツの底をトンと鳴らしてテーブルから下り、うつむく香月を凝視した。
香月は握る拳を額に当てて、重そうに口を開く。



【0070】

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