「もう! 何も急に行かなくっても……」
「いいから、いいから、太田はゆっくりしてなよ」
「そう、そう。ヤローより女の子の励ましの方が、
傷に良く効くんだからさ」
藍子は、両の拳を握り締めて声を上げた。
「もう! 久しぶりに会ったってのに、みんなってば! 」
その時、脇のカーテンが開き、
隣のベッドに横たわるお爺さんが、
肘をついて上体をこちらへと向け直す。
「すんませんがのぉ、少ぉし静かにしてくれんかな」
「はっ、はい……こちらこそ、すみません」
藍子は身を縮めて頭を下げた。
「プププ」「ククク」と、さもおかしそうに沖を含めた男の子らが、
顔を見合わせ、小声で笑う。
おもてを上げた藍子も、肩をすぼめて苦笑した。
ぞろぞろと、六人が昼食を取りに出て行けば、
白い部屋が病室らしく落ち着く。
改めて沖へ、ねぎらいの言葉をかけた。
「クリスマス・イブを病院で
過ごさなくちゃならないなんて、大変だよね」
「いいや、昼間は連中が見舞いに来てくれるし、
夜は夜で親が、今年は奮起したプレゼントを
持って来てくれるって言うしさ」
「沖くんのご両親も、すごく心配したんでしょう?
私からも、沖くんがこんな事件に巻き込まれた訳を説明した方が……」
「それは止めとけ。俺が適当な理由を考えて話しといたから
気にしなくていい。ただな……
俺にケガを負わせたのは倉本だって、
親が警察へ相談に行ってくれたんだけど。
目撃者も、証拠もないから捕まえるのは難しい、だと」
藍子は、ぼんやり思い出す。
【0060】
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