「くらもとくん! どうして? 」
 美々が嘆きの声を上げて寄越す。


「はは、こいつ、ヤッても構わないみたいだぜ」
「倉本っちゃんのヤツ、どう見ても、この女は遊びみたいだし」


「俺の家でヤルか。車の中じゃ。落ち着かねぇもんな」
 悲痛な女の叫びが、閉まるウィンドゥから徐々に遮られてゆく。
サスペンス物のテレビで絞殺される、断末魔の声に似ていた。


 片側の男に胸をつかまれ、
もう一方からはスカートの中に手を突っ込まれている。


「たすけて! くらも……」
 窓が閉じられ、密室となった車からは、
もう何も聞こえない。たじろぎの姿勢で、暴れる美々。


男からしてみれば抵抗とは言えないほどの、
ささやか過ぎる力しか持たない癖して。


 薄ら笑う倉本は、腕組みをし、嗜虐の視線を美々に当てた。
 青へ変わる信号。先輩がZのアクセルを踏み込み、急発進した。


バックミラーに映る美々を乗せた車は、
もう、ヘッドライトしか見えない。
「倉本っちゃん、あの娘、ホントに便所に使っちまって良かったんか? 」


「……らしくねぇ言葉。そろそろ先輩もトシなんじゃないっスか? 」
 シートに片膝立てた倉本が、前方の闇を見つめ、
美々を気遣う後ろの先輩を揶揄した。


(不穏なムードも読み取れない、幼稚な脳しか持たない女なら、
動物みたいに痛い目に合って覚えるしかないだろう。
それでも学ばねぇ奴も、山ほど居るけどな)


 青白く冷えた明け方に、さばさばした気分の倉本が自室へ戻ると、
ベッドにはグッタリ伸びた美々が寝ていてギョッとした。


「こいつ、家へ帰らなかったのか……」
 毛布からはみ出した手足には、幾つもの擦り傷が。


素直にヤラせれば、女を殴ったりする連中ではない。
 誰の為に抵抗したのやら。半ば呆れる。


 眠ってる……と言うよりは、死んでいるように見えた。
包帯が取れている、爪のはがれた指先。


その指が、倉本のシャツを、にわかに握った。
 とっさ、飛び退きかけたが、自分の腿に頬を寄せて
「こわかったの……」。舌足らずに訴える彼女は、
どんな媚態を尽くされるよりもエロティックだった。


 倉本は美々の肩を起こさせて、優しく抱き締めた。
 点在する細かい傷跡、小さな青痣。痛々しさから美々の身体に、
愛しい感情が湧く。


眉をひそめて哀願する瞳が、快楽や、
肌の温もり以外の物も「求めている」と訴える。


 ……ね、すき? あたしのこと、すきよね……。
 喘ぎながら繰り返す美々へ、倉本は荒々しく突く、
この体でしか返事をしない。


 他の奴ならともかく、美々はある意味『危ない女』な気がしたから。
 ……もっと、もっと、もっと……。


 力の限りフルな速度で求めに応じ、女体を突く。
美々が首を激しく横に振り、昇り詰めたのを確認してから、
一気に自分の物を打ち込めた。深い吐息の混ざるキスに、
美々は「うれしい」と掠れながら言い、倉本の唇を軽く噛む。


(これで満足しろよな)
 間違っても「好きだ」などの言葉を口にして、
体以上の期待をさせてはならない。




【0050】

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