W 果かなくて


倉本は同級生との緩慢な雑談に、自分を合せていた。
そうしながら、太田藍子と深く関わる人間を知っている者はいないかと、
探求の糸を張りめぐらせる。


その甲斐あって、二学期を終える前日、
ついにクラスメートの女子の内に情報源を捜し当てた。


「あの太田って子なら、先月行った映画館で見かけたわよ。
ボーイ・フレンドと来てたみたい」(決まった男がいるのか)


 初耳だった。
 昼休みには、さっそくその女子を学食に誘い、
カレーを奢る。スプーンに薄っぺらな豚肉を載せて、
倉本の欲した情報をすらっとくれた。


「男の子の方はね、隣の中学の『沖』って子だよ。
私は最近、受験前だから止めちゃったんだけど、
同じスイミング・スクールに通ってたの。明るくて、
コーチに冗談言うような子だったから、みんな名前知ってるのよ」


 『沖』という名を聞くのは、二度目だ。
 一度目は、電話口で、太田本人から。


 食後のコーヒー牛乳をおまけに付けて、
スクールの場所と、沖のクラスの曜日も聞き出す。


 倉本が、太田藍子と付き合っていたと思い込んでいるせいか、
不振がらずに教えてくれた。


「彼女を取り戻せるように、ガンバッテね」
 などと、自分の役割に満足した様子で、倉本を励ます。


「ああ、ありがとよ」
 倉本は片方の肘をテーブルに付いて、
女特有の浅はかな勘違いに、ほくそ笑んで礼を言う。


 家に帰れば美々がまだ、ベッドの上で、
団子虫のように丸まって寝ていた。いくら注意しても、
寝煙草を止めやしない。おかげでシーツに焦げた黒い輪の穴が、
所々に開いてしまった。


(なんで、こんなの飼っちまってんだろうな、オレ)
「帰るところが、ないの」


 そう言って転がり込んだ美々に、
改めて年を聞くと、やはり倉本と同級。


化粧はケバイが、十五才。
「中学は、二年生で辞めたのよ」


 虚勢を張り、美々は嘯く。
 部屋に自分以外の人間が居るのをウザく感じる時には、
髪をつかんで引っぱたいたり、
邪険な言葉を吐き付けたりを、良くした。




【0047】

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