(香月くんの頬に傷がある! )
藍子は香月を案ずれども、声はかけられない。
どこで倉本や、その仲間に見られているか分からないからだ。
実際、休み時間に倉本と擦れ違ったりもする。
絡まれぬよう、シカトでさっさと逃げてしまうが。
香月の白い肌にくっきり浮かぶ、青い痣。
(あれは私の代わりに、倉本へと断ってくれたから? )
狂おしいほどの申し訳なさで、頭の中が攪乱される。
夏希や他の友達らと、冗談を言い合い、
楽しく過ごせているにも拘わらず、学校へ行く気力が失せてゆく。
「お腹がジクジクするの。学校……休んでもいいかな」
顔色の芳しくない藍子の願いを、今度も母は聞き入れてくれた。
ベッドに伏せる藍子の額へ手を伸ばし、母は優しく問い掛ける。
「苦しくない? 病院の先生は神経的なものだって言ってたけど。
お父さんとお母さんの事なら、大丈夫なのよ。
そりゃあ喧嘩する日もあるけれど。
それとも……学校で何か心配事があるの?
藍ちゃんの了解なしに、先生へ相談したりしないから、
辛い事があったなら、お母さんへ話してちょうだいね」
憂える母の髪に……一本の、白いものが。
(お母さん、ゴメン。でも、打ち明けられはしないコトなの)
冬休みまで、あと六日。
お昼には母が消化の良い物をと、
菜の野菜を混ぜたおじやを作り、花柄の小ぶりの椀へ注ぎ、出してくれた。
母とFMラジオの静かなお喋りを聞きながら食べ終える。
部屋へ戻り、数学の復習にとりかかる。
毎朝、すまなそうな口振りで学校へ
欠席の電話連絡を入れてくれる母のために、
「少しくらいは勉強しなきゃ」と殊勝に思う。
ピィンポォォン。じっくり押されたチャイムの音が、
部屋で鳴る。洗濯物を取り込んでいた母の、悠長な足音が玄関へと向かう。
気にせずに、ドリルに勤しむ藍子の部屋へ、
トントントンと、せわしないノック音。
【0035】
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